劇団前進座   「切られお富」

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あらすじ

一幕

表向きは絹問屋、実は盗賊の観音久次こと赤間源左衛門。
その手代の蝙蝠(こうもり)の安蔵は、今日こそ、かねて横恋慕する赤間の妾・お富への思いを遂げようと、悪い仲間と示し合わせ、彼女を攫(さら)って滑川の辻堂前で……。
あわやというとき、かつて木更津の船中で見初め、契りを交わした浪人の井筒与三郎が来かかり、助けられる。と、激しい雷鳴。二人は辻堂へ……。
その密会を知った源左衛門は、お富をなぶり切りにして、川に捨てさせる。

赤間源左衛門に半死半生の目にあわさたお富を助けた安蔵は、薩埵峠に茶屋を出し同棲する。
三年の後、たまたま通りかかった与三郎は、疵だらけのお富と再会。


二幕
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お富は、与三郎が自分の主筋の子息であると知り、さらに彼が仕える主家・千葉家の宝、名刀北斗丸を探し求める浪々の身で、所在は尋ねあてたものの買い戻す二百両に窮しているとわかると、その金の調達を引き受ける。

安蔵とぐるになり、今は府中の弥勒町で女郎屋の主人におさまっている源左衛門の弱みをつき、首尾よく二百両を強請りとる。


三幕
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お富と安蔵が引き上げたあと、お富の言うなりに二百両を与えた源左衛門を訝った女房のお滝に、源左衛門は自分の前身を打ち明ける。
と、その様子を、客を装い窺い聞いていたのは千葉家の宝刀詮議の忍び役・舟穂幸十郎。宝刀北斗丸を奪って売り払った源左衛門を捕えにかかる。

一方、源左衛門の見世からの帰り道、お富と安蔵は狐ヶ崎の畜生塚で、強請りとった二百両を奪い合う。
安蔵は傘をカセに、お富は出刃をかざしての立ち廻り―――。

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 河竹黙阿弥【かわたけもくあみ】作『処女翫浮名横櫛【むすめごのみうきなのよこぐし】』の主人公で、体中に切り傷があることから通称「切られお富」と呼ばれます。かつての恋人【こいびと】である与三郎【よさぶろう】のために、強請り【ゆすり】や殺しをして金を用意しようとする「切られお富」は、「悪婆【あくば】」と呼ばれる役柄【やくがら】の典型例です。

 「悪婆(あくば)」は、髪【かみ】を結わず後ろでまとめた「馬の尻尾【しっぽ】」という鬘【かつら】を付け、格子縞【こうしじま】の衣裳【いしょう】を着るのが原則です。


悪婆(あくば) 悪いお婆さんのことではありません
強い意志を持って自分の意思を貫く中年の女性を指します。
・惚れた相手のために強請などの悪事を働いたり、刃物を振り回したりする女性の役柄です。もともと女方は悪役を演じませんでしたが、文化・文政年間[1804年~1830年]に活躍した5代目岩井半四郎(いわいはんしろう)によって確立されました。粋で歯切れのよいせりふ回しに特徴があり、愛嬌と女の色気を要求されます。

●悪婆の基本
悪婆の着物  格子柄の着物
・「世話物(せわもの)」の人物の衣裳であるため、柄で役の性格を表現しています。「弁慶格子」は粋な印象を与える柄で、「悪婆」の役が強請に行く場面では、多くの場合この衣裳を身に着けます。

悪婆の髪型
馬の尾尻(うまのしっぽ)
後ろで髪を無造作に束ねた様子が、馬の尻尾に似ているため名づけられました。この無造作な様子が、男勝りに強請や「立廻り」を行なう「悪婆」の性格を表現しています。
 配 役 (2016年8~12月巡演)

切られお富
……
河原崎 國太郎
井筒与三郎
……
嵐   芳三郎
蝙蝠の安蔵
……
藤 川 矢之輔
按摩丈賀・女房お滝
……
山 崎 辰三郎
みる杭の松・舟穂幸十郎
……
松 涛 喜八郎
赤間源左衛門
……
益 城   宏
手代松蔵/旅人
……
姉 川 新之輔
手代岩吉/女郎おのぶ/若い衆2
……
上 滝 啓太郎
噺家頓馬/女郎お弁/黒四天3
若い衆4
……
本 村 祐 樹
下女お茂/若い者太助/若い衆3
……
忠 村 臣 弥
乞食甲/若い者喜助/若い衆1
……
渡 会 元 之
手代竹松/駕籠かき熊吉
黒四天4/若い衆5
……
吉 永   昌
乞食乙/駕籠かき虎七/若い衆6
……
松 永   瑤
乞食丙/黒四天1/若い衆7
……
大 岩 剣 也
(ジャパンアクションエンタープライズ)
乞食丁/黒四天2/若い衆8
……
隈 本 秋 生
(ジャパンアクションエンタープライズ)


感想

久しぶりの面白かったです。
見得とか立ち回りとか歌舞伎特有の動きを楽しみました。
お富さんの一幕の美しい姿から、二幕お富さんの悪婆への変化や立ち振る舞いの変化が面白かったです。
そして三幕の夫との立ち回り、お富さんの包丁と番傘・泥井戸の釣瓶・墓場の塔婆での対抗が見ものでした。
でも、一瞬見せたお富さんのた包丁を持つ手のめらいに、お富さんは本来は優しい普通の女性だったのだなと思いました。
それが、悪婆にならざるを得なかった哀れを感じました。